ステュクスの満ち引きについて(残編)
ボロボロになった石板。現地の学者が「ステュクス」という現象に対する調査記録と一部の結論が記されている。書かれた年代は不明。
ステュクスの満ち引きについて(残編)
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…「死が生まれてから数年間、私たちには静かに流れる冥界の水に視線を向ける余裕がなかった」
最初の記録は戦争に関する文献に由来している。原文は下記の通り:
…軍勢が地平線の片側に現れれば、四度目の夜明けが訪れる前に、辺りは争乱の地と化す。戦いが大規模なものとなれば、大地を染める真っ赤な血は幽冥の紫になり、勝者の去る方へと広がっていく。そして、エーグルが目を向ける前に、大地へと沈んでいく…
我々の推測では、当時の人々は、普段はあまり目にすることのない紫を「深き赤」と認識していた。他の文献では、「美しくも、危険な気配」、「争乱の悲しみ」など、様々な表現がなされている。
しかしながら、とあるエイジリアの指揮官の手稿によると、その認識は数光歴年しか続かなかった可能性がある——
…隣国との情報が遮断されてから3ヶ月、結局、疫病の蔓延を抑えることはできなかった。あの都市は今、死の静寂に包まれている。しかし、今日の調査の後、斥候からの報告に私は疑問を感じた。彼は隣国の雪原に紫色の川が現れたと言っていたが、これまでにあそこで争いがあったとは聞いたことがない…
…これまでの認識は間違っていたというのか?あれは深い赤などではない、死者の道だったのだ!副官に命じて、あの冥河に触れてはならないと、全軍に伝えさせた…
これが「ステュクス」という呼び名が現れた最初の瞬間だと思われる。その後、彼らは冥河の出現が「タナトス」の誕生と関係があると考えるようになった……
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不明・光歴█████——「狩猟祭」を終えた後、ステュクスが湧き出て、帰還が遅れた。
██図・光歴25████争の月——飢饉により住民の3割が死亡した。記録によれば、城外の荒地で「ステュクスが二日流れていた」という。
クエン██城・光███5年初め——戦争により都市は破壊され、ステュクスが城内全体を飲み込んだ。外部の観測記録によると、少なくとも15日以上も続いたとされている。
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…エイジリアから送られてきた文献を基に、学者たちはいくつかの法則を導き出した——ステュクスは大規模な「死」が起こると現れ、数日で消える。そして、その満ち引きは「死」の規模と関連している。
その本質に関する議論は未だ混乱している。「亡者がタナトスに出会うのを阻止する試練」、「彷徨える魂の具現化」、「タナトスの涙」などの説があがっており、それぞれに支持者がいるが、結局証明には至らなかった……
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