符玄がヤコブ学士に宛てた手紙
愉快な協力の後、感謝の印として、符玄は博識学会に大衍窮観の陣の技術文書を提供した。

符玄がヤコブ学士に宛てた手紙

ヤコブ学士

拝啓

貴方が羅浮に提供してくれた重要な観測データにより、南ディアクヴァ阻止戦における我が軍の死傷者は、少なくとも70%減少した。ここに羅浮六御を代表して、貴方に心より感謝を申し上げる。

六御が共に署名した協議に従い、私は貴方に大衍窮観の陣の技術文書の一部を開示する。同時に、誠意を示すために学会が、理解できる言葉で簡単な解釈を付けておく。

「未来を予測」するうえで、「カオス理論」は超えることが難しい壁であることは、学会も承知のはずだ。如何なる「未来」の予測も最終的には、ある「カオス」の予測に帰結せざるを得ない。ただし、カオスは予測不能だ。天気の移り変わりから三体問題まで、どんなに小さな干渉でも、予測結果に致命的な偏差をもたらす。

しかし大衍窮観の陣の最初の創造者は、「遍知天君」からある着想を得て、それを未来を予測する方法とした。すべての未来を予測する行為の背後には、絶対的な干渉要素——「観測」そのものが存在している簡単に言えば、私たちがカオス系を観測する時、私たちの観測という行為そのものが、カオス系の最後の運行結果に影響を与えるということ。

この時、私たちの「観測」そのものを変数として扱えば(少し難しい言い方をすると、「私の観測を観測」する)、可能な限り正確な予測結果を得ることができる。

もちろん、これは創造者たちの最初の計画に過ぎない。彼らがこの偉大な機械を使い始めた時、誰も想像していなかった事態が発生した。

その現象については、手紙に添えた文書の中で、より正確な数学用語を用いて述べているため、ここでは簡単に説明する(もしかしたら正確さを失うかもしれない)。大衍窮観の陣が観測結果を観測する時、窮観の陣が観測する未来は私たちに迎合するように、混沌の中から真の姿を顕す——その未来には、大まかな輪郭しかないけれど。

あるいは——格物学上、厳密とは言えない解釈になるが、こう言い換えることもできる。私たちが未来を観測していない時、「まだ発生していない未来」は「すでに発生した過去」のように、現在には存在しない。しかし、私たちが未来を観測する時、未来は私たちが観測したように発生する。

さらに率直に言うと——少なくとも今のところ、大衍窮観の陣の原理はブラックボックスである。私たちが知っているのは、「自分の観測を観測」することで、カオス系から驚くほど正確な予測結果を得られるということだけ。しかし、何故そうなるのかを知る者も、説明できる者もいない。

太卜司の同僚を含む多くの人々が、これは人類が自分の力で未来に影響を与え、未来を選択することができるという例証だと考えている。しかし私は…この事実に対して異なる解釈を持っている——

過去、現在、未来、これらは通時的に存在しているのではなく、共時的に存在している。(私の観点は「時間」の存在を否定しているため、「通時」「共時」と述べるのは些か誤用かもしれない)この宇宙の一分一秒は、創世当初にすでに定められているのだ。

これは同時に、未来は絶対に改変できないことを意味している。

敬具

羅浮太卜司太卜 符玄