「民会」に関する考察
オクヘイマの民会制度の歴史とそのメカニズムに関する研究リポート。オクヘイマの政治体系を理解するのに重要な参考価値を持っている。
「民会」に関する考察
オンパロスの各都市国家の民は、過去現在を問わず民主政治に心惹かれ続けている。オクヘイマが都市形成された初期では、「民主」とは少数派の特権階級だけが享受できるものだった。しかし度重なる改革のすえ、オクヘイマの民会は歴史の舞台に上がり——これによりオクヘイマの「民主」は「全市民が享受できる民主」への転換を遂げ、重要な国務はすべて、民会によって決められるようになった。
注目すべきなのは、暗黒の潮が近づくにつれ、オクヘイマに身を寄せた各都市国家の民が、オクヘイマの政治に関与するようになったことだ。これによりオクヘイマの元市民の大切な権利が徐々に薄れてしまい、民会の改革を求める声が次々と上がってきた。
民主とは文明の発展による結果の1つであって、文明が発展する原因ではない。民主の効果を発揮するには、異なる社会・状況・問題を踏まえ、それぞれ違うルールを定める必要がある。すべての状況に適するルールなど存在しないのだから。
つまり本書が完成した現在でも、オクヘイマの民会制度は変革し続ける。時間の都合により、本書で考察するのはあくまで今現在のオクヘイマ民会であり、これからの変化についての研究は行わない。この前提を踏まえ本書の内容を参考にしてほしい。
オクヘイマの市民、市民権と市民政策
オクヘイマ民会のメカニズムと主な役割を深く研究する前に、まずオクヘイマの市民、市民権、そして市民政策について話さなければならない。とある元老の観点によると、オクヘイマは自由な市民の集合体である、とのことだ。市民たちが持つ権力が絶大とも言えるため、その権利を確実に守ろうとするならば、市民資格を厳しく審査する必要がある。
「帰化者の権力を認めるかどうか」という議題は、かつて黄金裔の指導者と元老院の議論の中心だった。歴史が進むにつれ、オンパロスの都市国家が次々と陥落し、暗黒の潮も目の前まで迫って来ると、市民権の改革も余儀なくされた…結果として、各都市国家の民は、聖都で平等な市民権を持ち、誰もが平等に公共事務に参加できるようになった。
社会において、人々には確かな差が存在している——貧困に苦しむ者と富に恵まれる者、元住民と異邦人…しかし聖都オクヘイマでは、社会での差をそのまま政治における差として反映させることはない。政治においては、市民は皆平等である。
(以下略)
民会の運行メカニズム
オクヘイマ民会は、決まった流れに従って開かれる(緊急事態を除く)。民会を開催する前に、都市国家の代表で構成された権力機関——当期の元老院は英雄の壁の前で、まもなく開催される民会の日程と会議場所を発表する。会議場所として選ばれるのは、一般的に聖都の黎明の崖である。
通常であれば、民会の開催前に元老院のメンバーにより議題が提示される。議事会メンバ-から半数以上の同意票を得られた後、当議題は当期の民会の正式議題となる。議事会は「どんな事務を受理し、いつ何をするべきか」を事前に決めなければならない。そして決定後に議事会主席は民会の議事日程を元老院の「議会主席」に渡す。会議の進行を務めるのは、その議会主席になる。
通常、事前に議事会で先行議論を通してない事務は、民会で討論できない。議事会で先行議論を行った事務の種類は、2通り存在する。1つは議事会で十分に議論され、あとは市民による票決を行うだけの事務。もう1つは、先行議論の段階でなんの意見も生まれず、民会で市民間の弁論を通して、最終決議を下す事務だ。
票決の結果は「ケファレ紋章が刻まれたオストラコン」で記録・統計される。民会期間中は、市民の意見収集用としてオクヘイマに投票用壺が設置される。すべての議題を十分に議論し、投票した後、元老院は可決された法令を公開し、英雄の壁の前に掲示する。
(以下略)
民会の主な役割
民会が実際に持つ権力は下記の通りである——立法権、任免権、宣戦布告、講和、さらには具体的な戦争の指揮権といった重要な権力。
しかし、歴史的実践を踏まえた角度から見ると、オクヘイマ民会の管理と通知は、完全に「市民」に委ねられているわけではない。民会とは、社会における大多数の意志に適している「エリート」が、社会の事務を効率よく管理する方式なのである。
それはすなわち、「黄金裔の指導者と元老院が共にオクヘイマの大小の事務を管理する」という現状も、オクヘイマの民会制度によって決められたということだ。市民たちは社会事務の管理や政治の意思決定に直接参加はしないが、投票を含むさまざまな手段で政治を行う者たちに影響を与えている。
(以下略)
付録・元老院の主要メンバー
元老院とは、オンパロスの各都市国家の代表者たちが結成した権力機関である。メンバーの大半は異なる都市国家から選ばれ、ごく一部は現役の元老院メンバーに直接招かれている。民会により権力が与えられ、オクヘイマの大小の事務を実際に処理するのはそういったメンバーたちだ。
中でも一番名高い元老といえば、アンティキシラ人のリュクルゴスである——アンティキシラ人とは、黄金戦争前から滅びる寸前であった人種である。黄金紀で幾度もケファレと直接の交流を果たし、凡人たちの言葉をケファレに伝えてきたリュクルゴスは、名実ともに「神礼の観衆」なのだ。リュクルゴスがたびたび議会主席として選ばれるのは、誰もが認める彼の中立的な態度が主な理由である。
特筆すべきは、元老のカイニスがその手腕によりオクヘイマで素晴らしい成果をあげたことと、多くの支持者を得たことだ。カイニスが手元に集まった資源を活用し、「黄金裔が実権を握る」という現状を変え、オクヘイマの政治的生態を再構築できると信じる者は少なくない。