祝祭料理の手引き
オクヘイマの著名な美食家が自らまとめた料理本。どのタイタンの信者でも中から自分にぴったりなレシピを見つけられる。

その1


「命運季」

門関の月:ヤーヌスの二色ピタ
材料:
オクヘイマ産地麦粉500グラム、オリーブ油100ミリリットル、岩塩10グラム、ファジェイナのネクタール100ミリリットル、クモヒツジの肉300グラム(前もってハーブで漬けて、細かく刻んだものを餡にする)、野菜300グラム(みじん切りにしたリーキ、セロリ、ディルを餡にする)

作り方:
1、地麦粉と塩をボウルに入れて混ぜ、オリーブ油とぬるま湯をゆっくり加えて手で捏ねる。濡れ布巾をかぶせて半日寝かせる。
2、2種類の餡を準備する。1つ目の餡:事前にハーブで漬けておいた新鮮なクモヒツジ肉をみじん切りにし、塩で味を調える。2つ目の餡:リーキ、セロリ、ディルをみじん切りにし、オリーブ油を少々加えて混ぜる。
3、生地を2等分し、それぞれ丸く伸ばす。
4、伸ばした生地の1つには肉餡、もう1つに野菜餡をのせる。陶製のグリルプレートにオリーブ油を塗り、生地を1枚のせる。
5、もう1枚の生地を具が下になるように、上からかぶせて端をしっかり密着させて閉じる。
6、表面にオリーブ油を塗り、予熱した石窯に入れる。表面がきつね色になって、サクサクになるまで約四針ほどの時間をかけて焼く。
7、取り出して完成。お好みでハチミツをかけても美味しい。

二色ピタはヤーヌスの繋がり――すなわち1つは過去、もう1つは未来――を象徴している。
門関の月の初め、一家が囲む食卓で最年長の者がパイを切り分け、家族が順に味わっていく。過去を象徴する野菜餡を先に食べて、過去に思いをはせ、次に未来を象徴する肉餡を食べて、新年への期待を抱く。食べ終えたら、最年少の者が代表して新年の抱負を語り、素晴らしい未来への扉が開かれることを願って、ヤーヌスに祈りを奉げる。



平衡の月:思索の日の天秤スープ
材料:
白インゲン200グラム、黒豆200グラム、インゲン豆200グラム、ジョーリアの根200グラム(小さく切る)、ティアネギ200グラム(みじん切り)、セロリ200グラム(小さく切る)、オリーブ油50ミリリットル、ローリエ3枚、塩適量、黒コショウ適量、湧き水2リットル

作り方:
1、豆類をきれいに洗い、調理の前日から水に浸しておく。
2、銅製の大きな鍋にオリーブ油を入れる。熱してからティアネギを加えて透き通るまで炒める。
3、他の材料をすべて入れ(豆類は水を切る)、そこへ水をひたひたになるまで入れる。
4、強火で煮立ててから弱火にし、ローリエを加える。蓋をして豆類と野菜が柔らかくなるまで二針ほど煮込む。
5、塩コショウで味を調え、木製のおたまで豆を少しつぶして、スープにとろみをつける。

2月はタレンタムが見守る平衡の月だ。タレンタムの前ではすべての食材が厳密に等しい重さであることが求められる。そうすることで天秤のバランスを維持するのだ。沈思の日は夕食に天秤スープを飲むことが最も重要な儀礼だとされている。食事の前には全員で声をそろえて過去の行いについての反省を述べる。それからようやく天秤スープを味わうことができる。

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「支柱季」

栽培の月:ジョーリアの七穀パン
材料:
大地麦粉500グラム、雲麦粉500グラム、潮麦50グラム、粟50グラム、亜麻の実30グラム、胡麻30グラム、チアシード20グラム、酵母15グラム、塩10グラム、ハチミツ30グラム、温めたファジェイナのネクタール400ミリリットル、オリーブ油30ミリリットル

作り方:
1、すべての穀物を石臼で粗挽きにする。大きなボウルに全て入れて混ぜ合わせる。
2、酵母を少量のぬるま湯で溶かし、そこにハチミツを加えて混ぜる。
3、ボウルに入った粉の真ん中に小さなくぼみを作り、2と水とオリーブ油を注ぐ。
4、生地にツヤが出るまでしっかりこねて丸くまとめる。約一針から二針ほどの時間がかかる。
5、生地に麻布を被せ、暖かい場所で半日ほど発酵させる。
6、生地が発酵して倍くらいの大きさになったら、再び生地をこねてガスを抜く。形を丸く整え、表面に麦の模様を入れる。それから約五針ほどの時間をかけて、2次発酵させる。
7、石窯を予熱し、パン用のパーラーを使って、生地を窯に入れて約三針ほど焼く。パンの底を叩いた時に軽い音がしたら、美味しく焼けた証拠。

オンパロスで一般的な食べ物。種まきの季節、農夫たちは明晰の刻に麦畑に集まり、持ち寄った七穀パンをその場にいる全員に分ける。みなで食べて、ジョーリアがもたらしてくれた7種の味わいを大いに楽しむのだ。
村には、農夫たちが畑にパンくずを撒いて七種の穀物が豊作であることを願う風習が残っている。この風習が転じて、オクヘイマなどの都市国家の「残ったパンくずを鉢植えに撒く」という風習になったと言われている。どちらにせよ、その儀式を終えて初めて、種まきは始まる。



歓喜の月:ファジェイナの笑い声
材料:
新鮮な魚2匹(前もって下処理を済ませ、切り身にしておく)。巻目魚のひげ500グラム(切り身)、星貝500グラム(きれいに洗う)、ティアネギ2個(みじん切り)、ニンニク4かけ(みじん切り)、オリーブ油100ミリリットル、オオカミナス4個(皮をむいてみじん切り)、ローリエ2枚、ローズマリー1本、塩適量、黒コショウ適量、ファジェイナのネクタール500ミリリットル、湧き水1リットル

作り方:
1、銅製の大きな鍋でオリーブ油を熱し、ティアネギとニンニクをしんなりするまで炒める。
2、オオカミナスを加えて一針ほど煮込む。
3、そこにファジェイナのネクタールを1本分加え、次にローリエとローズマリーを加える。アルコールが飛ぶまで加熱する。
4、水を加え、沸騰したら巻目魚のひげを加えて一針ほど煮る。
5、魚の切り身と星貝を加え、弱火で二針ほど煮込んで魚にしっかり火を通し、貝を開かせる。
6、塩とコショウをお好みで加えて、盛り付ける。

歓喜の月の喜びの時、オクヘイマの人々の多くは街の広場に集まって、みんなで大鍋に魚スープを作る。できたスープの一口目はファジェイナへの感謝のしるしとして地面に撒くことをお忘れなく。スープにありつくのはその後だ。
いただく時は、スープの表面に強く息を吹きかけて笑い声のような音を立てるのがよいとされている。楽しそうな笑い声がファジェイナの耳へ十分に届けば、彼女は人々の中に混じって共に宴を楽しみ、そこにいる人々に神秘的な恩恵をもたらしてくれると言われている。

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